AKATUKI No.748

編集・発行:(一財)日本青年協会
平成25年6月14日

平成24年度農業関係青年研修支援事業

平成24年度農業関係青年研修支援事業が行われ、支援金を使って学生4名、農業青年2名の研修生がそれぞれ研修・研究を行った。

カナダ・ホルスタイン酪農視察
八紘学園北海道農業専門学校
札幌牛舎専攻科2年 吉田隼人

私は、2012年11月6日(火)より12日(月)まで日本青年協会の「平成24年度農業関係青年研修支援事業」の支援を受け、カナダで行われたロイヤル・ウィンターフェアという農業祭と牧場視察を行うツアーに参加し、酪農の先進国であるカナダの酪農家の設備投資への考え方と現在の乳牛改良の方向性、そして個々の牧場の設備の工夫点について学ぶ研修を行った。
1軒目に訪れたサミットホルム牧場では、作業の効率化と牛のストレスを減らすための工夫としてフリーストール体系としている点や分娩房ごとに別々に管理することによる餌の飽食や牛同士の個体順位の闘争を減らす点などが見受けらた。
2軒目に訪れたフラドン牧場では、昔ながらの牛舎の原型を残しながら改築し、設備投資のコストをなるべく抑えて、良い牛を大切に独房に別飼いするといった工夫が見受けられました。
3軒目に訪れたボスデール牧場では、養豚と並列してホルスタインを飼育しているせいか、防疫の対策が所々見受けられた。養豚場と牛舎が少し離れた場所に立地している点や扉が何重にも設置されている点、集乳車が集乳する場所と搾乳準備室の分離化などが見受けられた。
4軒目に訪れたクオリティー牧場では、クオリティシーズという種苗会社から始まっているだけあって乾草庫がしっかりと建てられており、また取り出しやすいように入口が広く、牛舎に隣接されていた。
以上のことから、個々の牧場主の経営方針によって、必要とする設備投資が大きく変化するということが分かった。私個人としては、フラドンの設備投資が一番共感できる部分が多かった。

カナダ総合家畜共進会(ロイヤル・ウィンターフェア)
1.乳牛共進会
①レッドアンドホワイトショウ
今回の視察旅行のスケジュール上、ショウリングでは最高位決定戦しか見られなかったが、待機場にて各月齢ごとの部のトップの牛を見て回っていると、日本の牛との全体的な格差を痛感させられた。赤毛牛の赤毛は劣性遺伝子で、赤毛牛に改良しようと思ってもなかなか簡単には作れず、ゆえに日本の共進会でもあまり見かけないのだが、ここのショウでは赤毛牛のみでショウが成り立ってしまう程の牛の出品数に私はまず驚かされた。
次に驚かされたのは、牛全体のレベルの高さだ。未経産のクラスや経産の牛の全体的な体高の高さは日本とそこまで差異は感じられなかったが、日本と大きな差異を感じたのは骨格の正確さ、肋の開帳度、フレームの大きさ、そしてなんといっても経産クラスの乳房の構造だ。赤毛牛は本来ホルスタインを乳用種としてだけでなく体格の向上を目的に改良していた頃、ショートホーン種を掛け合わせたときの名残であり、それゆえにホルスタインの赤毛牛は黒毛のホルスタインよりも乳用性に欠けるといわれているのだが、それを感じさせない乳房の幅や後乳房の付着の高さ、乳房自体の力強さに終始驚きっぱなしだった。特に最高位を取ったブロンディン レッドマン セイズミーという牛や、準最高位のホイッティア ファーム ラバETという牛はとても素晴らしかった。最高位決定戦では、他の牛よりもずば抜けて乳房の構造が素晴らしく、なにより牛自体に品位があった。私はしばらく興奮が収まらなかった。
②ブラックアンドホワイトショウ
この日はショウが始まる2時間前から席取りをしていた。そうしないと席が上しか空いておらず、近くで牛を見ることができないからだ。席取りをした後、牛の待機場を見回ることにした。まず目に止まったのが、出品前だというのに牛が埃だらけで、その日に牛洗いをした形跡が全くなかった点だ。どこの牧場を見て回っても牛が埃だらけで、私は少し不安に駆られましたので、近くにいたカナダのとある牧場で実習している知り合いの方にそのことを聞いてみると、「埃はトップを作るときにファンで飛ばしているから大丈夫だ」と言われ、また「日本と違って牛を持ってくる前から完壁に仕上げてくるのが当たり前で牛洗いも家畜車で移動している最中に汚くするだけだから前日だけで良い」と言われました。
よく見てみると、どこの牧場を見ても飛節部分などの足周りや腹下周りが全くと言っていいほど、茶色いシミのような箇所が見受けられなかった。このことが私にとって新鮮な驚きであり、日本よりもショウの牛に対する管理の徹底さを伺いしれた最初の出来事だった。
いざショウが始まると、日本と少し違った雰囲気の空気であることに気づいた。まず、鉄柵にもたれかかって牛を見る人がいないことだ。日本では牛をなるべく近くで見ようとするので、ショウリングぎりぎりの柵に上半身を乗り出しながら観戦が当たり前になっているのだが、ロイヤル・ウィンターフェアでは、そういう行為を一切禁止としているらしく、そういう行為をしている人はセキュリティーの人に注意を受けられていた。どうやら席から見ている他の観客に配慮するためと、ローヤルウィンターフェア自体の品位を保つために行われているようだった。確かに日本のように鉄柵にもたれかかって牛を見る行為は、他の観客にも迷惑が掛かるだろうし、見栄えも悪い。そのような点も、運営側が考慮して対応していることに驚き、日本でも行うべきことだと私は思った。
ショウをしばらく見ていると、牛が時間通りスムーズに移動し過ぎているように私は感じた。日本では暴れて手の付けられない牛が、ショウリングの中で暴走して、外周部を歩いている後続の牛が立ち往生してしまい、審査の妨げになることが間々ある。だがローヤルウィンターフェアでは、そういった牛が見受けられなく、審査の妨げになる行為自体がほとんど見受けられなかった。精々ショウリングに持ってくるまでの牛の移動に時間がかかり、後から登場するといったところしかなかった。後から聞いた話だが、ローヤルウィンターフェアでは、そういった審査の妨げになることがあった場合、その場で退場させられるようで、日本より厳しいルールの中でショウを行っている酪農家に対し、私は畏敬の念を抱いた。
全体的に見ていると、種牛のゴールドウイン系統の牛が半分以上占めていることに驚いた。去年のワールドデイリーエキスポという、アメリカの共進会の最高位がゴールドウインで、そのショウでは、全体的にゴールドウイン系統の牛が多いなという感想を抱く程しか居なかったのだが、今年のローヤルウィンターフェアでは圧倒的にゴールドウインが多かった。今回のブラックアンドホワイトの最高位であり、また家畜全部門最高位賞を獲ったRF ゴールドウィン ヘイリーや、準最高位のエビーホルム ゴールドウィン マーシャ、また2、3才クラスの最高位も、クックビュー ゴールドウィン モニークという、トップがすべてゴールドウインという結果になった。次に多かったのがサンチェスで、その次がダンディー、フィーバーだ。
2.ロイヤル・ウィンターフェアに対する考え方の国民性
日本との相対的な違いは、一般企業が協賛しているという点です。日本のショウでは、酪農関連の会社のみが協賛で、一般人が集まりそうな店がほとんどありません。ですがカナダでは一般企業が協賛し、ローヤルウィンターを通じて子どもたちに食育について勉強させ、将来の酪農業界の人材を発掘するという、素晴らしい発想だと思いました。ローヤルウィンターフェアに、普段見ることもなかなか出来ない色々な家畜に触れ合える上に、近くでフードショップも多数出店しています。また動物に触れ合え、食の大切さについても知ってもらえるという2つの貴重な体験ができ、子どもたちが食育について勉強することができるというのがとても素晴らしいことで、この事業は今後の酪農業界にとって、必要不可欠な事業だと私は感じました。日本は酪農関連に就職する人口が減ってきていると言われているそうですが、ローヤルウィンターフェアのようなイベントを設け、子どもたちに食育について勉強する場を、もっと作っていく努力を行っていけば、日本の酪農業界も活性化していくのではないかと私は感じました。
今回の視察により、カナダが酪農業界の先進国である理由や、日本とは違った視点での家畜共進会の存在意義など、日本では体験出来ない数多くの経験をすることができ、視察研修に行く前の自分の当たり前だと思っていた価値観が少し変わったと感じますし、酪農に対する視野が広がったと思います。この経験を、今後自分の地域の発展のために微力ながら貢献し、自分の酪農経営の方針と経営自体に生かしていきたいと思います。
このような機会を与えて頂いた日本青年協会に対し、心より感謝を申し上げます。

平成24年度農業関係青年研修支援
事業報告    鳥取県 糸田川 啓

 私は、平成24年度4月に夏秋トマトを基幹作物とした専業農家として就農した。就農した地域は鳥取県日野郡日南町であり、山陰地方の中山間地であり高齢化が進んでいる地域でもある。
 今回の研修の目的としては、夏秋トマトの大産地である北海道平取の視察およびトマトの栽培方法・加工品・裏作品目の候補探しである。
 北海道を訪問したのは、平成24年11月13日から16日までの3泊4日であった。ちょうどその時期は、私自身夏秋トマトの栽培が終わり、冬ほうれん草をトマト栽培の際に使用したハウスに移植するための作業に追われている時期であった。そして、山陰地方で栽培が終わっていた夏秋トマトは、北海道平取町でもほぼ栽培が終わっていた。
 北海道の地で受けた研修は、栽培が終わっていたために栽培現場を見学することはできなかったが、日高西部地区普及センター支所で、びらとりトマト産地の概要や新規就農などの移住者に関して、そして加工品について説明を受けた。また、濁川町で地熱発電の還元熱をトマト栽培に利用している専業農家も訪問した。
 まず、びらとりトマトに関して、昭和47年に栽培が始まり、昭和61年に「桃太郎」を試験導入して、びらとりトマトを”ニシバの恋人”とネーミングを行っている。また、現在JA平取の主要農畜産物売上高の約6割を占める程の品目となっている。濁川のトマトは、温泉熱を利用していて各農家ごとに栽培期間が少しずれていて周年栽培を行っており、トマト生産額は8億円程度である。
 日南町のトマト栽培と比較してみると、夏秋トマトの産地であるびらとりトマトは、加温半促成栽培と雨よけ栽培の両方を行っており、半促成栽培は3月から4月に定植し、8月に摘心を行い、胡瓜や寒締めほうれん草の栽培をしている。雨よけ栽培は、同時期の5月中旬から、遅いもので7月上旬定植のものまであった。品種としては、桃太郎トマトの産地であるため、桃太郎やハウス桃太郎、桃太郎エイト、桃太郎ギフトの栽培が行われている。中でも耳を疑った点は、100%実生(自根)栽培を行っており、苗に関しても、日南町がプラグトレイからの育苗か成苗を購入しているのに対して、平取町は、農協から128穴プラグトレイでの提供であり、鉢上げから定植までの間は各農家が育苗を行っている。さらに、部会員数も165戸と多く、後継者の就農割合も多く平均年齢が33歳程度であった。
 一方で、濁川トマトで耳を疑った点は、訪問した農家で栽培している品種が、タキイの桃太郎系統とサカタの王様トマト系統を栽培しているところがあり、品種に統一がそれほどなく、大玉トマトであれば選果場が受け入れているという点である。
 次に、ハウスの構造に着目してみると、最高気温が日南町の方が北海道よりも高いにもかかわらず、平取町のトマト栽培を行っているハウスには、天窓や循環扇の設置が行われており、夏季の高温や多湿に対しての対策が十分にされていた。これは、日南町ではトマトを栽培するときに株間を40から60cmで定植しているのに対して平取町が30cm程度の密植で栽培を行っているためハウス内で換気が必要になっているからではないかと考えた。また、ハウス鉄骨のφも日南町では25mmや32mmが通常であるのに対して北海道では、28mmのパイプを使用していた。
次に加工品に関してだが、日南町では生産部としての取り組みはなく加工品会社へ出荷規格に乗らないトマトを各自が持っていき、その会社がジュースやケチャップなどを生産販売している。それに対して平取町では、直売所でJAの方が言っていたことだが農家の所得を1円でも多くする。そして、そのことが結果的にJAの売り上げアップに繋がると言っていた。その言葉のとおりで、規格外のトマトの回収から加工品の生産、販売までを、一括でJAで行っていた。さらに、加工品の品種も、ジュースからカレーやゼリーなど多岐にわたっていた。
また、土壌診断の徹底や栽培マニュアルの作成、病害虫対策などの点でも、生産部、農協や行政の団結力が平取町ではとても強いものであると感じ、そのことが後継者の戻ってきていることと平均年齢の低さにも繋がっていることが分かった。
 最後に、この研修で大産地と周年栽培を行っている産地、そして日南町とでは各条件が違うことはもちろんのことであるが、日南町のトマト栽培が直面している、後継者不足と反収の低さを改善するためには、北海道の産地で行われているような生産者、行政、農協の一丸となった取り組みが必要であることと、生産者の産地全体での後継者育成に対しての取り組みが必須であると感じた。また、裏作に関しては、残念なことに現在でも日南町で栽培されているほうれん草が有望であることが分かったが、今後自身で栽培を行いながら、他の作物に関しても取り組んでいく予定である。

協会日誌

平成25年
4月1日 一般財団法人として登記(同時に特例民法法人として解散登記)
4月23日 位髙公認会計士事務所来会打合せ
4月25日 香港佐藤良信会員(青研21)来会懇談
5月9日 井口武雄理事長打合せ
5月14日 福島県佐藤忠会員(青研9)来会懇談
5月22日 位髙公認会計士事務所来会打合せ
5月29日 住友化学打合せ
5月30日 本部監査(於:東京大手町)

あとがき

我孫子に移って2年目に入ります。表紙も我孫子シリーズで、文化人たちが気に入ったこの地域を紹介していきますので、お楽しみに!それから、一般財団法人に移行して、早くも2カ月が過ぎました。今月末の評議員会で決算が確定し、公益目的支出の支出額も確定いたします。その額を持って、今ある財産を取り崩して支出していきますので、皆様のご理解をよろしくお願いいたします。
佐藤

2013年06月14日更新